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放課後急いで荷物をまとめる僕に、淳くんが声をかけてきた。
「ノリト、何だか嬉しそうだね。吉川と何かあったのか?」
「なっ、何で?」
「だってー目じりが下がってて、口角がいつもより微妙に上がってる」
それって吉川がしていた、だらしない顔と同じじゃないか。気をつけなければ。
「いつもと変わらないけどね。手作りチョコを作るのが、意外と楽しいせいかな」
「あー、大隅さんといい感じって噂になってる。ノリト、モテモテだ」
その噂、淳くんも知ってたのか。まったく困ったな。
「僕と大隅さんは、普通の友達関係だよ。それよりも、淳くんに頼みがあるんだ」
(――ここはしっかり誤解を解いて、淳くんと大隅さんの関係を少しでも近づけたい!)
「なんだ? 真剣な顔して頼みごとって」
「大隅さんね、淳くんのために手作りチョコを作ってるんだ。淳くんは毎年たくさん貰うのが確定しているけれど、一番最初に大隅さんのチョコを食べて欲しいなと思って」
「一番最初って、どうしてだよ? もしかして惚れ薬でも入ってる?」
「変なものは入ってないって! うーんと……すっごく美味しくできてるんだ。他のチョコが、ぼやけちゃうくらいのレベル!」
(どうしたら、一番最初に食べてもらえるだろうか。説得力なくてごめんよ、大隅さん)
なぜかペンケースを握りしめながら力説する僕の顔を、首を傾げながら見ていた淳くん。
「ノリトがそこまで言うなら、わかった。一番最初に食べてやる」
「ありがとう! 本当にありがとう淳くん。愛情がたくさん詰まってるチョコだから、絶対に美味しいよ。バレンタイン当日が楽しみだね」
背中をバシンと叩いて、嬉しそうに笑いながら足早に去っていくノリトを、淳は苦笑いしながら見送った。
「失恋したばっかの俺に愛情かー……。ノリトってばホント、無駄にお節介焼き」
複雑な心境を抱えつつマイペースに荷物を片付けてから、ゆっくりとした足取りで野球部に向かった。
「しょうがない。ノリトの手作りチョコ大作戦を見守りつつ、俺自身も楽しませてもらおうっと」
ノリトの手作りチョコ大作戦が大戦争になろうとは、この時は誰も予想していなかった。
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