100人が本棚に入れています
本棚に追加
***
頭に血が上ってる吉川に、今は何を言っても通じないのがわかっていたので、あえて追いかけなかった。
「また怒らせちゃった。そんなつもりないのに、どうしてこうなっちゃうかなぁ……」
唖然とした雰囲気で立ち尽くす、ふたりに訊ねてみる。
「しかも本当にタイミング悪いったら、ありゃしない。一部始終を見ていた感じなのかい?」
「私たちが、ノリトさんと彼女のやり取りを見てすぐに、吉川さんがやって来たんです。大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
「あー、うん。ちょっとビックリしただけ。怒らせるようなことをした、僕が悪いんだ」
「ノリトは悪くない。悪いのは吉川だ……。だってアイツ、ノリトの話を全然聞こうとしなかったじゃないか!」
「淳くん?」
「ノリトが何を言おうとしてたのか、コレを見てわかったよ」
淳くんは僕が持っているチョコの箱をそっと手にとると、切なげに微笑んだ。
「吉川より長く、傍でノリトを見てきたから。親友として見ていたから、俺にはわかる。ノリトの優しさが、さ」
落ち込む僕の頭を、乱暴に撫でてくれた淳くん。
「大隅さんはノリトと一緒に、チョコの返却を頼んでいい?」
「わかりました。淳さんは吉川さんのところに行くんですか?」
淳くんから、チョコの箱を受け取る大隅さん。心配そうに僕を見つめる。
「頭がショートした吉川に、親友パワーを見せつけてやる。大事な親友を泣かせやがって、コノヤローってさ。だからノリト、放課後教室で、吉川のことを待ってろ。頑張って手作りしたチョコを、ちゃんと渡さないといけないだろう?」
「泣いてないよ、そこまでヤワじゃないし」
「誤魔化しても無駄。心が土砂降りのクセにさ。今頃屋上で頭を冷やしてる吉川をちゃんと更正させてやるから、安心して待ってろよな!」
淳くんは切れ長の目を細めて笑いながら、颯爽と走り去っていった。
「淳さん、格好いいですね。それにすごいな、ノリトさんのことをちゃんと理解してる」
「僕はいつか淳くんに、恩返しができるかな……」
呟いた言葉に、大隅さんは大きく頷いてくれた。
「きっとできますよ。まずは、これを返しに行きましょう。こういうのは、早いほうがいいと思うから」
大隅さんに促されるように言われたので、肩を並べて吉川のクラスに向かった。
吉川と淳くんがケンカにならなきゃいいなと内心心配しながら、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!