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4月
柚多夏は大阪へ行った。
希春は横浜に残った。
でも希春の左手の薬指には結婚指輪がはめられていた。
週末には柚多夏が横浜に帰って来た。
そんなある日の休日。
柚多夏のマンションで
日当たりのいいリビングの床に背中合わせに体育座りして希春は読書をし、柚多夏はテレビの野球中継を見ていた。
『あのプロポーズ、なんかさ、柚多夏くんは余裕だったよね?私が断るとは思わなかったの?』
読書をしていた希春が急に柚多夏に話し掛けた。
『思わなかった。あの時は不思議な事に希春の気持ちに確信が持てたんだよ』
『自信あるんだ』
『ないな。希春を誰にも渡したくないって、いつも思ってたよ』
『やだ、私はモテないよ。でも、結構、情熱家なんだ』
『希春はヤキモチ焼きだったね』
『そうかな』
柚多夏は希春を背中から抱きしめた。
希春は自分の左手を柚多夏の左手に添えた。
柚多夏の薬指の結婚指輪を軽く指でなぞり幸せの確認をした。
『来月の引越しが待ち遠しいな』
と希春が囁いた。
『その前に来週の希春の誕生日を楽しみにしててよ』
と 柚多夏が優しく希春を包みながら囁き返した。
憧れの結婚指輪を二人でしている事も夢みたいなのに
希春の誕生日にはアジアンフレンチのお店を予約してくれて、
そこで誕生石のダイヤモンドのリングをプレゼントしてくれた。
『プロポーズの時に渡せなくて、遅れたけど』
と 柚多夏が言いながら左手薬指にはめてくれた。
『嬉しい、ありがとう。この年で恥ずかしいんだけど、子供の頃から憧れていたんだ。柚多夏くんが全部叶えてくれる』
柚多夏は希春の子供の頃の憧れてを実現してくれる王子様の様だった。
人生って何があるか分からない。
今日、48歳になって、
大切に思われている事の幸せを初めて知った希春だった。
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