もう人前では泣けない。

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希春が柚多夏への自分の気持ちに素直に従うと決めてから2ヶ月が経った。 季節はまだ肌寒い春。 希春は冴木 結衣といつものバーにいた。 『なんの進展 もなしかぁ』 と冴木 結衣が言った。 『うん…』 希春が溜め息混じりに返事をした。 『連絡先の交換はしたんだよね?』 『一応…でも、もともと返信とかしないタイプで、今は仕事も忙しいから出来ないからって言われて、その通りだった。返信が来ても簡単な定型文なんだよね』 『………』 『………』 『希春、残念だけど彼には恋愛感情がないよ。たまに希春に思わせ振りだったり優しくするのは気まぐれで、寂しいからモテていたいんだね。彼女が出来たら希春はお払い箱になるのがオチだよ。そんな奴やめな』 『うん、私もそうだと思う』 『柚多夏はやめな』 『うん』 とは言っても… 冴木 結衣の言ってる事は十分に分かっている。 柚多夏への気持ちが諦めに変わり始めていた希春だったけど、 何かほんの少し…引っかかる。 シャツの後ろの裾を子供につままれていて、前へ進もうとする希春を止めているようで、 柚多夏への気持ちの欠片が希春の中に残ってしまう…。 恋愛とは振り回されるばかりで面倒な上に この年になってからの報われない恋ほど惨めなものはない。 若い時のようにはいかないんだと希春は思っていた。 『柚多夏はゲイかもよ』 と冴木結衣が言った。 『え?やめてよ』 と 言いながら笑ってしまった。 それから、冴木結衣と希春で柚多夏のゲイ疑惑の話で盛り上がった。 柚多夏はきっと何処かでクシャミを沢山していた事だろう。
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