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『いや、お子さんの誕生日に野球のグローブをプレゼントしたいんだって、分からないから選んで欲しいって頼まれたんだ』
と柚多夏が言った。
『そうなんだ。喜んでもらえるといいね』
柚多夏の表情が柔らかくなった。
『じゃあ、仕事に戻るね』
柚多夏が小さく頷いて
お互い逆方向へ歩き出した。
希春とすれ違った時、美人が振り返り希春を見て、クスッとした。
希春は長い間いつも一人で歩いていたのに、
今日ほど一人で歩く事がこんなに寂しく感じた事は
今までなかった。
そして、
美人にクスッと笑われた時、
…美人から見たら私は惨めに見えたのかな…
と思ったら
目の前が霞んで、冷たい液体がポロポロと頬を伝え落ちた。
…ああ、私はやっぱり柚多夏くんの事が大好きだったんだ…
…でも、さようなら、柚多夏くんと柚多夏くんを好きになった私…
柚多夏くんが幸せならいいよ…
…もう恋は死ぬまでしない…
涙、人前で、見っともない私…
涙を隠すように俯いて歩いた。
自宅に戻り、サッサっとグルメ記事のコラムを書いて編集社へメールした。
そして、夜になると希春はパソコンを開き黙々と文章を書き始めた。
何かに取り憑かれたように文章が頭に浮かんできた。
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