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しかし、歴史は無情でしかない。
愛し合った二人を、引き裂いた現実。
業火に焼かれるように崩れ落ちていく、六角獄舎のそばで、愛するものの名を呼びながら泣き崩れた、紫乃。その腕をどうにか引きながら、避難をする間中も、彼女は何度も何度も、古高の名を呼び
彼とともに、そう、繰り返していた。
その後の彼女の様子は、目も当てられたものではなかった。目を離せば、自決をしようと小刀を手にし、止めれば泣き崩れ
それでも、訃報とともにもたらされた古高の首がみつからないのだという事実が、彼女をこの世にとどまらせたのだ。
ほんのひとつまみの無いようなわずかな希望。それを大事な宝物のように、彼女は生きていくことを決意した。
自分の愛した男の記憶を、失わないように。そして必ず、また会えるのだと・・・・・信じて。
その後、長州藩が朝敵になるとともに行われた第一次長州征伐。そのよく翌年に行われた第二次長州討伐の最中、徳川第十四代将軍、徳川家茂公が天に召され、連敗を重ねた徳川幕府は、その戦を停戦させる。
その後、宗家を相続した慶喜が将軍職に就くと、大政奉還。鳥羽・伏見の戦いでの惨敗。そして、江戸への退去と、江戸城無血開城。
急激に流れていく歴史のそれを、彼女は目をそらさず、見続けていた。
まるでそこにいることがかなわなかった古高の代わりに、歴史の進んでいくさまを、その目に焼き付けるように。
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