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校内を走り回り、疲れ果てた俺は壁にもたれかかっていた。
さっきから同じところを行き来しているような、この手応えのなさは一体何なのだろう。
「君、外部生なの?」
突然肩を掴まれ、反射的に肩を揺らす。
ゆっくりと振り返ると、やたらと輝いた顔面の人間が笑顔を振りまいていた。
何、この状況。
「ここ広いよねー。俺もね、中等部の頃は迷いまくったよー」
「……そうですか。ところで寮にはどういったら良いのでしょう」
「何それ! 君、一年でしょ? 俺も一年。敬語いらん。オーケイ?」
「失礼します」
「ちょちょちょ! 待った待った!!」
話が通じなさそうだったので早々に退散しようとしたが、焦った様子の自称一年生に腕を掴まれてしまった。
申し訳ないが言わせてもらおう。
くっそ面倒臭い。
「自己紹介がまだだったよね! 俺、道本類っていうんだ。君は? 君は?」
「ナナシタロウです。それでは失礼」
「へー変わった名前……って違ーう! 待ってってば! 案内するから名前教えて! ほら、寮の中も広いしね、部屋まで送るから!」
「……天津」
送ってくれるというならば名乗らない理由はない。
本名を伝えると、道本は安心したようにへらりと笑った。
こいつ、意外といい奴かもしれない。
面倒だなんて言って申し訳なく思っているような気もする。
「天津君ってー、何君なの?」
「質問の意味がわかりません。当然天津君でしょう」
「そうじゃなくて! 下の名前ね」
「裕徳ですけど……それが何か」
「ひろのり……ヒロ君かー。うん、それっぽい」
何がそれっぽいのかはわからないが、どうやら満足したらしい。
鼻歌交じりにスキップまでし始めた。
やっぱり面倒だ、放っておくに越したことはない。
それ以降は、話しかけられても無視を決め込んだ。
適当に相槌を打っていれば次から次へと新しいことを持ちかけてくる。
だから、俺は無になることにした。
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