うらはら

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ここに来てこんなことを言うのもおかしな話だが、俺は自分の行動が理解できずにいる。 もともと何に対しても淡白な人間が、何を血迷ったらこんなお節介を焼けるのか。 ただ、本能的な部分で感じ取ってはいるのだろう。 この人が今にも消えてしまいそうで、放っておいたら危ないということ。 親切心を理由に、何かを得ようとしていることも。 これ以上踏み込んではいけない気がして、今度こそ立ち去ることを決めた。 「マグカップは寮の管理人さんに渡しておいてください。誰が返しにきたかは聞かないので、誰が取りにきたかも聞かないで……って、興味ないですよね。じゃあ、そういうことでよろしくお願いします」 いつになく饒舌な自分に驚くとともに、何も言わない相手に一方的に話しかけているという事実が恥ずかしくなり、どんどん早口になる。 最終的にはまくし立てるようなかたちで会話終了。 名も知らぬその人に背を向け、真っ直ぐ歩いていく。 後ろ髪を引かれる思いになったのは、きっと気のせいだ。 「……ありがと、ね」 囁くような、その優しい声音に息が詰まるような想いがしたのは、気のせいだ。 手の冷たさに反して頬が熱を持っているのも、気のせい。 やたらと心臓がうるさいのも、気のせいでしかない。 そうでなくては、こんな不可解な感情に対する説明がつかないのだから。 「…………」 どういたしまして、口だけ動かし、声には出さなかった。 怖い、なんて、馬鹿げている。
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