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いくら春だからといって夜は冷えるから、こんなところに長居したら風邪をひく。
一応声をかけておくか、と一歩踏み出した。
「誰……!?」
その人は、警戒心剥き出しの声音で叫んだ。
掠れた声……もしかして、もうすでに風邪をひいているんじゃないのか。
「あの、大きなお世話かもしれませんけど、寮に戻った方がいいと思いますよ。ここは冷えますし」
「……本当に大きなお世話だよね。僕のことは放っておいてよ」
「でも……」
「放っておいてくれって言って……! ごほっごほっ……あー……もういい」
声を荒げたせいで激しく咳き込み、怒る気が失せたのか、諦めたようにため息をついた。
それが酷く弱々しく感じられ、大きなお世話だろうが心配になる。
「やっぱり中に入ってください。そのままだと風邪が酷くなりますよ」
「うるさいな……君には関係ないだろ!?」
どきりと、心臓が嫌な音を立てた。
そうだ、関係ない。
この人にはこの人の世界があって、それは俺にとっては何の価値もないことだ。
気にかけることなんかない。
俺は、何を焦っていたのだろう。
「……くだらない」
息を吐くほどのか細い声で呟き、一歩、また一歩と後退する。
五歩ほど下がったところで一気に駆け出した。
俺には、関係ないんだ。
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