37人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
- 最後の時間 -
「今日制服なんだね」
なんか新鮮。
「さすがに帰ってる時間までは無かったからな」
「ごめんね」
「ん?あやまる必要ねーし。」
「ま、今日で最後だしね!」
元気に言ってみた。
「どこいく?」
そう言われても…
どうしよう…
答えを出せない私に諒が言った。
「ちょっと遠出しない?」
遠出??
「え?どこ?」
「海」
海かぁ。最近見てないなぁ。
最後だからさっさと帰るかと思ってたのに、出かけてくれるんだね。
電車で出掛けるなんてね。
しかも制服のままだよ。
私が男の子とこうやって出かけるなんて…ね。
いくらバイトとはいえ、やっぱり緊張する。
諒、疲れてるのかな。
電車の席、並んで座った私の隣でウトウトしてる。
なんだかかわいい。そんな風に思った。
「わりぃ。ちょっと肩かして」
返事をする間もなく、私に寄りかかって寝始めた…
あぁ肩ね。
サラサラの髪が首をなでる。
なんだろう。この居心地のよさ。
髪がふれるこの感じも、寄りかかってくれることも、なんだかよくわからないけど心地いい。
あと何分くらいこうしていられるのかな。
ってなんでこんな風に思うんだろう。バイトだよバイト。
仕事としてやってんだよね。
「んー」
「起きた?」
15分くらいしたとき、諒がゆっくりと体を起こした。
まだもうちょっとこうしていたかったな。
「うん。おまえの身長くらいあると、寄りかかっても安心だから助かった」
うっわー。
ちょっと傷付いたー。
そっそうだよね。便利な枕ってことだよね。
「はいはい。すいませんねー」
久々に言ったな。この言葉。
よっし。気を取り直そう。
「ねぇ。なんで海なの?」
「ん?あー・・・見たかったから」
「へぇ」
それだけ言葉をかわして、手をつないだまま歩く。
それも今日までだと思うと、やっぱりどこか寂しくて・・・
諒は、普段から女の子とこうやって来てるんだろうけど・・・
夕方の海は、すごく綺麗で、なんだか心まで癒やされた。
「なぁ、美優」
「ん?」
「大丈夫か?明日から」
「あぁ。うん。大丈夫だよ。あとは自分でなんとかするから」
もう頼めないよ。
「ならいいけど・・・」
「ごめんね。」
「なんかあったら連絡しろよ」
嬉しいけど…
たぶんもう電話はしないと思うよ。
「今日はありがと」
「あぁ」
「ちがうね。今日までありがと!だね」
最初のコメントを投稿しよう!