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高校に入って知り合いが増えてからは、あまりそいつの姿を見なくなった。
不思議と僕もそれを気にかけることがないまま、高校生活の半分くらいが過ぎた。
歩きなれた通学路。
すっかり葉を落としてしまった紅葉の木を流し目で見送る。
少し遠い距離だったけど徒歩通学をやめなかったのは
二つ隣の町に住んでる彼女と合流するためだ。
「おはよう。いつもご苦労様です」
この日も、そう言って彼女は電柱の陰からひょっこりと姿を現した。
そのまま並んで二人で歩く。
朝日が眩しい河原の道とか、潮の香りが漂うような海沿いの道とか
そんな理想とはほど遠くてただの住宅街だったけど
それでもただ歩みを進めるだけで、二人の幸せは共有できていた。
「今日は少し風が冷たいね」
思わず口をついて出たような彼女の言葉。
少し待ちぼうけをくらった彼女の両手は、ほんのりと赤く染まっているけど
そうだね
そんなありきたりな一言でしか、照れ臭くて彼女の気持ちに応えることなんかできなかった。
それでも二人の世界は順調にぐるぐる廻っていて
僕は大切な二人の時間を着々と浪費していた。
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