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道路を挟んだ向かい側に、生徒の波に埋もれた高校の正門が見えてくる。
「ね、けっこう時間ぎりぎりかも。急ご」
駆け足で歩道橋を上がる彼女の右手は、僕の左手をしっかりと掴んでいた。
掴んでいたんだけれど。
「あっ」
不意に、僕達のすぐ前を駆けていた二人組の女子生徒の片方が転ぶ。
「痛っ…」
その拍子に、手に持っていたカバンが放り出された。
「えっ…」
勢いのまま僕達の方へと、宙を舞う。
「危なっ…」
振り向く間もなく、鈍い音。
声なんて出たもんじゃない。
最後に残ったのは彼女の手の冷たさ。
いったいどれほど僕のことを待ってたんだろう。
そんな罪悪感のなか
左手から、彼女の右手の感覚は消えて
ずっしりとした革製のカバンが
顔を覆い隠したまま
重力に巻き込まれるかたちで
彼女は後ろ向きに落下した。
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