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あ、うん。少年がね。逃げてたんだよ。こう、たたーって。何から逃げていたかは多分逃げていた少年も分からなかったんだと思うよ。
少年にとって逃げるってのは敗けとか弱さとかじゃないんだ。少年は別に悪い事はしてないし、本当ただの少年だったしね。
その少年の家族構成は母と父、後少年だけ。あ、そうそう、それに犬もいたかな。小麦色の犬だよ。わんわん鳴く二歳の柴犬。
少年はその犬が好きだったし、たまに噛まれて泣いてたけど甘噛みだから両親も笑って頭を撫でてたね。少年の家は父が長年平社員を全うし三十年ローンで建てた二階建て。三人で住むには広いかな。近い内に多分もう一人位妹や弟が少年に増えるんだと思う。
柴犬は敷地内の庭にある赤い屋根の古屋に住んでて何かを拾うと小屋の裏手を掘り返して埋めたりさ。
母は専業主婦で元々は父の働いていた会社で事務をしていて妊娠を機に専業主婦になったわけだし、たまに事務仕事をしたいと少年に笑って言ってたよ。
そんな極々ありふれた生活や父母、環境に囲まれていた少年は幸せだったし、幼いながらそれなりに自覚もしてた。母は好きだし、父の髭はちくちくしてて遊び道具にも少年には見えてた。
週一の休日に近場の公園で遊んでくれる父を少年は大好きだったし、本当未熟な価値観しか持たないから人は死なないと信じてたよ。まあ、少年の父や母は死ななかったけど、少年が小学二年生になる頃母が癌で倒れたね。
先に述べたように母は死ななかった。父も看病や面会に毎日行ってたし、連れ添いで少年も拙いながら手紙や似顔絵を描いてた。
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