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「恵梨からだよ。多分また長い時間ダイブするだろうからって」
ナーヴギアは頭部をすっぽり覆うヘルメット状で、起動すれば仮想空間でアバターを動かせる、夢のゲームハードだ。
しかし、ゲーム内でも時間が経てば空腹を感じる。
SAO内ではその空腹を仮想の食事により満たせるが、現実の腹が膨れるわけではない。
よって大多数のダイブするプレイヤーはダイブする直前に何か食べるようにしているのだ。
「おお、サンキュー兄貴!恵姉にもお礼言っといて!」
昼食を食べた後なのだが、成長期の男子は二人前を平らげる事などざらにある。
モグモグと頬張っていると、未哉は向かいに座って微笑んだ。
「そんなに楽しみか?」
「ん!」
口の中に物が入っているからか、喋る事はせずに「ん」だけで返事をする。
「そっか、そんなに楽しみなのかぁ」
「ん!」
「じゃあ、俺もやろうかな」
「ん!……ん!!???」
未哉がスッと取り出したのはソードアート・オンラインのソフトパッケージ。
初回ロッド一万本しか発売されず、少なくとも十万人が求めた品である。
慌ててサンドイッチを飲み込んだ来生は驚きのあまり叫んでしまった。
「ま、マジでええぇぇぇぇ!!!??」
「うん、マジマジ」
「え、えぇ……」
事態を飲み込むと今度は絶句した。
忙しい奴である。
「まあ、俺は仕事とかあるから恵梨がやるんだけどな」
「それでも十分ビックリ……」
「ナーヴギアが買えたら俺も始めるけどな」
「やっぱやるんかい!」
未哉は来生をからかってニヤニヤと満足な様子。
突っ込みをした来生も溜め息を一つ吐くと、パッと笑顔になる。
「皆でやるの!?やったぁー!って恵姉フルダイブ経験あったっけ?」
「家事の合間にちょこちょこ知育系のヤツやってたらしい」
「なら大丈夫か!よっっっしぃぃ!俄然楽しみになってきたぁぁぁ!」
思わぬサプライズに嬉しくなり、拳を天に突き上げる来生。
「そうそう、恵梨から伝言で『最初の位置にいます』だって。アバターは黒髪ロングの女性にするらしいから、分かりやすいと思う」
「オッケイ、まあ俺の方が早いと思うけどね」
時間を確認すると、壁掛けのアナログ時計は長針を十二に近づきつつあった。
「やっべ、そろそろだ」
既に接続されているナーヴギアを被ると、未哉が来生の名を呼んだ。
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