第一話『始まりを告げる鐘』

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――――東京都、御徒町。 朝早くにトレーニングウェアを着て走る少年が一人。 「ふふふん♪ふ~ふ~ふん♪ふ~ん~♪」 少年はまだうたた寝をしている街並みを心地よく通り過ぎていく。 鼻歌を歌いながら走るスピードを少しずつ落としていき、彼の自宅に着く頃には競歩ぐらいに落ちていた。 内ポケットからカードキーと金属製の鍵を出し、周りに誰も居ないことを確かめてからロックを解いていく。 先ずカードキーをインターホンのコードリーダーカメラに翳(かざ)して認識させる。 それから金属製の鍵をドアノブの上の鍵穴に差し込んで半時計回りに二回回す。 鍵は差し込んだまま、インターホン下のタイルをおもむろに剥がす。 そこには電子キーとカードの差し込み口が隠されていた。 少年は肩にかけていたスポーツタオルで汗を拭いながら、手慣れた様子で六桁の英数字を入力し、先程インターホンに翳したカードキーを差し込んだ。 そしてようやく、ドアの幾つもの鍵が外れる音がした。 鍵とカードキーの両方を引き抜き、少年は帰宅の言葉と共に自宅へと入っていった。 「ただいま~」 尚、この玄関はオートロックであり、内側からは簡単に開けられるのである。 少年は脱衣場に直行し、汗で濡れたトレーニングウェアを脱ぎ洗濯機の中に放り込む。 そして汗を流すため、バスルームに足を踏み入れた。 少年、御法川(みのりかわ)来生(きお)にとって今日は待ちに待った特別な日だ。 ずっと楽しみにしていたVRMMORPG『ソードアート・オンライン』が今日の午後1時から正式サービスを開始する。 それが楽しみで日課の早朝ランニングをいつもより早く終えてしまい、時間が余ってしまった。 どうしようかと頭を悩ませながらバスルームを出る。 身体中の水滴を拭っていき、しょうがない、勉強でもするかと決める頃には、普段着に着替え終わっていた。 「おはよう。いつも精が出るね来生」 脱衣場を出ると、兄の未哉(みや)と丁度顔を合わせた。 未哉は高身長の青年だ。 黒く艶のある髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、ゴムで一つに束ねている。 本当に男か疑う程髪の毛がサラッサラで、しかも爽やか系の美青年。 「よかったらこの後コーヒーでもどうだい?でも、汗かいてきたならスポーツドリンクの方が良いかな?」 この爽やか笑顔は自分には到底真似できないな、と来生は羨望の気持ちと一緒に再認識した。
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