十一粒 挑戦 ー加賀美ー

4/29
前へ
/405ページ
次へ
「加賀美せんせーだけが檜山せんせーを憧れてると思わないでよ? 檜山せんせーに助けられて憧れてる生徒はいっぱい居るんだから」 その言葉は、まるで自分に言い聞かせるようだった。 唇を噛み締めながら、悪態を吐くような言い方。 これ、は演技では無理だと思う。 演技ではない表情だ。 「お前も、その大勢の中の一人ってわけですね」 「うるさい! 加賀美せんせーも勘違いして傷つかない方が良いんだからね!」 「――は?」 「昨日、檜山せんせーの家から出て来たじゃん。恋する乙女みたいな気持ち悪い顔で。 でもさ、檜山せんせーが進路指導室で何をしてるか知らないでしょ?」 居座る気なのか、向かいのソファにドカッと座り足を組みながら、そう言う。 その目はギラギラと濁った炎で燃えている。 進路指導室で檜山が何をしていても関係ないが、俺が恋する乙女みたいな顔をしていた事は否定させてもらおう。 ありえない。 「みんなに親切にするなら、特別なんて作ると、みんな傷つくんだ」 むかつくー……。 そう語尾を伸ばしながら、南野弟はポロリと本音を吐き出す。
/405ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4234人が本棚に入れています
本棚に追加