十一粒 挑戦 ー加賀美ー

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「あの死にかけの坊主、誰ですか?」 南野弟に聞くと、回りの女子生徒たちが俺の顔を緊張した面持ちで見てくる。 別に俺に話しかけてこなければ、俺だってお前らに冷たい言葉は投げつけないってーのに。 「あの坊主がお兄ちゃんだよ☆」 本当に言葉の語尾に星が見えるような、先程とは別人の口調の南野弟に吐き気がする。 吐き気がするけれど。 「昨日までは禿げて無かった気がするが?」 身体がキツいのか、『ヴーヴー』とスマホの着信音みたいなうねり声が教室中に響き渡る。 「なんか昨日、泣き張らした目で帰ってきて、そのままお風呂でずっと水のシャワー浴びてたんだ……」 「じゃあ、また失恋か」 「猛くん、あんな見た目なのに弱っ」 「今度は誰にフラれたの?」 「かなりの落ち込み様だから、本気だったのね」 女子生徒がピーチクパーチク煩いのと、具合が悪そうな南野兄に苛々してくる。 ずかずかと教室に入り、南野兄の目の前に立つ。 教室中が静まり返るのが分かった。 「お前、さっさと帰りなさい」
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