十一粒 挑戦 ー加賀美ー

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「あっはは。君のつんつんした引きこもりの性格なんてそう簡単に分かりっこないよ」 パリッと糊の効いた白衣が、足を組み換える度にスルスルと流れるように動く。 滝澤教授は机に肘を付き、珈琲の香りを嗅ぎながらそう笑う。 講義の後だったようで、質問に訪れた学生に丁寧に説明する姿を見ると、滝澤教授だって俺だけに優しいわけではないと理解できた。 でも傷つかない俺の心には理解できない。 なんで檜山は駄目で滝澤教授は良いのだろうか。 「教授、相変わらず研究室は汚いですね」 HERMESの珈琲カップは艶々で高級そうに輝いているのに、研究室は資料が所々山積みだったり、カップラーメンの空が洗面所にたまっていたり。 汚れた白衣をどけて、ソファに座るように促された時はため息さえ出てしまった。 「――君がまたお掃除しに来てくれるなら綺麗になりますよ」 「……はぁ。教授が頼めば喜んでやるような学生はいっぱい居ますけど」
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