十一粒 挑戦 ー加賀美ー

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「さっきまで泣きそうだった烏がもう皮肉を吐いてますね」 クスクス教授は笑うとパソコンを起動し始めた。 どうやら教授の桴海の森である研究室は、人を入れるのを選ぶらしい。 ――そんな研究室に入れてちょっとだけ誇らしい。 「教授の顔に泥を塗るかもしれませんが、俺もう保険医なんてやりたくない、です」 珈琲の水面を揺らしたら、情けない表情の俺の顔も揺れて消えていく。 だけど、限界だった。 「ふむ。逃げるの? 傷つきたくないから? その先を知るのが怖いから?」 「……分からないけど、誰も俺を理解なんてできないから」 ぶほっ 「教授!!」 珈琲を樹海めがけて吹き出した教授は、お腹を抱えて笑いだす。 「君、今やっと思春期ですか! あはは、30にもなって!」 「ま、まだ成ってませんよ! 思春期でもありません!」 「くくっ」 「――何時まで笑うつもりだけですか」 恨めしそうに睨むと、目尻の涙を掬いながら教授は笑顔で俺を見つめる。 「うん。で、君は彼が好きだったんですよね?」
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