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「んー。君が怒っても電話やメールを無視するぐらいだから平気だよ」
ふふっと優雅に笑う滝澤教授は、俺の事なんて何もかもお見通しなんだ。
「過去の傷を守ろうと、色んなものに壁を作る君は痛々しい。でもね、それは君がぶつかって作った傷じゃない。誰かに付けられた傷だから」
「…………」
「ぶつかってみなさい。彼にぶつかって、自分で傷を作ると、案外楽になるものですよ」
引き出しからお菓子を少しずつ取り出しながら、笑う。
俺の悩みなんてちっぽけだと言わんばかりに。
渡されたチョコや飴やクッキーの甘さに隠れてしまうような。
教授がクッキーを絵になるような仕草で食べている時、机の上の内線が鳴り出した。
失礼、とクッキーの粉がついた右手を少し挙げて謝りながら、受話器を取る。
「えー。客が来ている? 困ったなー。アポなしさんとは今日は会う時間ないよ」
クッキーの粉を舐めながら、教授は苦笑している。
「え? 今はカウンセラー中なんだ」
『俺、帰りますよ?』
邪魔になるのは申し訳なくてそう言うと、教授は指で丸を作る。
「今から帰るみたいだよ」
え……?
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