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「あと20分で俺は戻らなければいけない」
「――別に俺には関係ありません」
そう言ってそっぽを向くけど、檜山は運転席のドアに背もたれて動かない。
逃げ場を塞がれ、立ち尽くす俺を檜山はじっと見つめる。
「傷つけた事は謝ります。謝りますけど、もどかしい」
「謝っているようには聞こえません」
可愛いげのない返答をしてしまう――いや、この年になって可愛いげのある態度もどうかと思うが、全然檜山が喜ぶような反応を返してやれない。
「南野くんは発情してるだけだけど、俺はユーリの傷が癒えるのを待とうと思ってた。待てると」
何が言いたいのだろうか。
痛々しい、思い詰めた表情で。
「でも時間が経てば経つほど、ユーリは思い詰めて悪い方向にしか考えないから、心配なんだ」
スッと右手を差し出してきたので、つい一歩後ろへ下がってしまったが、檜山は更に右手を伸ばしてくる。
「ユーリから触れて。怖くないから、触れて。
嫌なら、許せないなら、関わりたくないなら、触れなくていい」
「は?」
「泣かせて傷つけたけど、謝って抱き締めて涙を拭く事もできないんだから、ユーリから触れて?」
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