十八粒 その味は。 ―檜山―

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「加賀美くん、空気が柔らかくなりましたね」 朝、校長が俺にそう言って来た。 「人見知りが激しいみたいですが、慣れてきたのかもしれませんね」 俺も当たり障りがないようにそう伝える。 「女子生徒は視界にも入れなかったのに、挨拶に頷いたらしいですよ」 「それは……びっくりです」 怖いから見ない。 怖いから拒絶する。 怖いから嫌われようとする。 ユーリは繊細で傷だらけの心なのに自分を守る方法は不器用だった。 だから、恐怖するはずの女性を視野に入れるだけでもすごい進歩だ。 ――今すぐ頭を撫でてあげたい。 「やはり檜山先生の人柄ですね」 「いえ。俺は何もしていませんよ」 原因というか要因というか。 俺がユーリ以外に触れるのにヤキモチ焼いてくれるのは嬉しい。 ……俺が影響して変わってくれたのなら尚更。 「檜山先生はお父さんによく似て、本当にこの職は天職だと思っていますよ」 「あはは」 「いつかは継がれるのだよね?」 そう校長にやんわり探られたけど、曖昧に笑って誤魔化した。
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