二十粒 甘い  ー加賀美

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保健室の窓から、南野兄のクラスがよく見える。 カーテンで隠れるように見るのは、もちろんあんな熊じゃなくて――檜山だ。 檜山はすらりとした長い指でチョークを掴み、奴しい几帳面で綺麗な字を書いていく。 それを見ているだけで、口の中が砂糖菓子でいっぱいになったような、強い胸焼けを感じる。 何が人に興味が無いだ。 何が女は怖いだ。 俺は散々自分を悲劇のヒロインのように思い、甘やかしていただけだ。 こんなに。 こんなに簡単に人を受け入れてしまうのだから。 「――何で俺、なんですか?」 聞こえるはずもないのに、教壇に立つ檜山を見ながらそう呟く。 はっきり言って素直じゃないし、檜山には冷たい態度ばかりとるのに。 檜山が必死で俺の機嫌をとったり、気を引こうとしてくるのが堪らない。 あの抱き締める指先が優しい事や、 しつこく蹂躙してくる熱いあの舌。 翻弄されて腰まで砕けてしまいそうな愛撫に、 何故心は簡単に満たされていくんだ。
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