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クソガキだし、自分を大切にせず軽はずみな発言をするし、俺の嫌いな部類だが、
――それでも気持ちなんて、そう簡単に分かりはしない。
あんな風に男を相手にするのは慣れてるようだった。
つまりは、過去に何かあった可能性がある。
傷なんて見えはしないんだから。
「お兄ちゃんがね、臨時の保険医が美人美人騒ぐから見に行こうとしてたんだぁ。本当に綺麗な人ですね」
「――それは確かに」
助手席から身を乗り出して、檜山に甘える南野。
これは、かなり、相手が南野に少しでも気があれば勘違いしそうな仕草だ。
一瞬、取り囲まれた南野が昔の自分に重なってフラッシュバックが起きたが、なんとか気を失わずにすんだ。
もしかしたら檜山にはバレたかもしれないが、聞いては来ないだろう。
あんな胸くそ悪い体験は、俺だけで十分だ。
気づかれないよう、悟られないよう、
背筋を伸ばして、足を組み変え髪を弄る。
そうすると閑静な朝の住宅地の右の一軒屋に、
熊が仁王立ちしているのが見えた。
「げ、お兄ちゃんだ。お兄ーちゃん」
窓を開けて南野が手を振ると、熊は勢いよく車目掛けて突進してくる。
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