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「加賀美先生」
優しくそう呼ばれた声は、嫌ではなかった。
それまでのざわざわした気持ちや、ドロドロした記憶が、消えていく感じで。
「……檜、山先生?」
ボーッとする意識の中、そう目の前の奴を呼ぶ。
「大丈夫ですか?」
にっこりとそう笑うのは、間違いなく俺に酔ってキスした馬鹿檜山。
「加賀美先生、保健室の床に倒れてたんですよ? 大丈夫ですか?」
「――そうか」
俺を覗き込む檜山の向こうの時計を見た。
まだ昼休み内だから、30分も倒れては居なかったようだ。
――長い長い悪夢だったのに。
「泣いてたから、慌てて洋服が乱れてないか確認しました。南野くんに襲われたかと思って」
クスクス笑うが、今、その冗談は笑えなかった。
「すまない。助かった」
不本意ながらもコイツのお陰で悪夢から覚めたのも事実だからな。
「加賀美先生が素直だと、とても可愛いですね」
「――殴りますよ」
睨むと、檜山は真剣な瞳になった。
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