一粒  トラウマ

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肺に思いきり煙草の煙を吸い込みながら、自分の体を除化していく。 あのトラウマは、医者になった今も根強くこの胸の中にある。 縛られて身動きがとれない俺の服を脱がすあの手。 マニキュアがされた爪が俺の肌にあたる度に、小さな小さなみみず腫を作る。 クスクス クスクス ――本当にユーリ君って可愛いわよね。 三人の手に、自由を奪われた俺の体は弄ばれる。 玩(もてあそ)ばれる。 救いなんてない。誰も。 だから、だろうか。 あんなに生徒と向き合っている、熱血さが鬱陶しい。 檜山 浩二(ひやま こうじ)。 俺はこいつが苦手だ。 トラウマを蒸し返される。 心を抉られる。 「今度から断ろう」 そう本音がポロリと漏れながらも、 四本煙草を吸うと、身体中を這いずり回っていたトラウマは、煙とともに消えていった。
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