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駒子は、パチくんのためにカレーと紅茶を取ってきた。
駒子が暮らす大正時代は、カレーは限られた西洋レストランでしか食べられない、おしゃれで高額な食べ物だったのだ。
カレーのお皿をテーブルに置き、駒子はポケットの中から銀色に光る、手のひらにおさまるくらいの、小さくて丸い容器を取り出すと、すばやく開けた。
なんともいえない、強烈なにおいが鼻をつき、駒子は思わず鼻を押さえた。
中身をカレーの上に、大胆に全てぶちまけると、スプーンで念入りにかき混ぜた。
駒子は悪事の残骸を、そのへんの花壇の影にこっそり捨てて、そしらぬ顔で席に戻った。
テラス席には、すでに加古川さんが座っていた。
「加古川さん、13歳のお誕生日おめでとう。本日はお招き頂いて、本当にどうもありがとう」
駒子が声をかけると、
「ありがとうと言うのは、こちらのほうよ。
あなたがいなかったら、わたくし、鉢元様とお近づきになれるような機会なんて、一生なかったわ」
「そんな、大げさな。あ、戻ってきた」
パチくんは、ウェイターが使うような大きなお盆に、駒子と加古川さんの料理と飲み物、そしてデザートのフルーツを乗せていた。
「大変お待たせしてしまい申し訳ございません」
「まあいいのよ。加古川さんとは初対面よね。ご挨拶が済んだらお掛けなさい」
にこやかな顔の駒子は、加古川さんへのあいさつが済んでパチくんが座ったとたん、テーブルの下で彼の足を踏みつけた。
下を向いて痛みに耐えるパチくんの様子をみて、加古川さんが、駒子に耳打ちしてきた。
「鉢元様、どうして下を向いているのかしら。私のことが気に入らないのかしら」
「そんなことあるわけないでしょう。きっと女の子とあまり話したことないから緊張しているのよ」
駒子がからかうように言うと、加古川さんはとたんに頬を赤らめる。
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