お嬢様は実はツンデレ?

6/11
前へ
/17ページ
次へ
駒子は、パチくんのためにカレーと紅茶を取ってきた。 駒子が暮らす大正時代は、カレーは限られた西洋レストランでしか食べられない、おしゃれで高額な食べ物だったのだ。 カレーのお皿をテーブルに置き、駒子はポケットの中から銀色に光る、手のひらにおさまるくらいの、小さくて丸い容器を取り出すと、すばやく開けた。 なんともいえない、強烈なにおいが鼻をつき、駒子は思わず鼻を押さえた。 中身をカレーの上に、大胆に全てぶちまけると、スプーンで念入りにかき混ぜた。 駒子は悪事の残骸を、そのへんの花壇の影にこっそり捨てて、そしらぬ顔で席に戻った。 テラス席には、すでに加古川さんが座っていた。 「加古川さん、13歳のお誕生日おめでとう。本日はお招き頂いて、本当にどうもありがとう」 駒子が声をかけると、 「ありがとうと言うのは、こちらのほうよ。 あなたがいなかったら、わたくし、鉢元様とお近づきになれるような機会なんて、一生なかったわ」 「そんな、大げさな。あ、戻ってきた」 パチくんは、ウェイターが使うような大きなお盆に、駒子と加古川さんの料理と飲み物、そしてデザートのフルーツを乗せていた。 「大変お待たせしてしまい申し訳ございません」 「まあいいのよ。加古川さんとは初対面よね。ご挨拶が済んだらお掛けなさい」 にこやかな顔の駒子は、加古川さんへのあいさつが済んでパチくんが座ったとたん、テーブルの下で彼の足を踏みつけた。 下を向いて痛みに耐えるパチくんの様子をみて、加古川さんが、駒子に耳打ちしてきた。 「鉢元様、どうして下を向いているのかしら。私のことが気に入らないのかしら」 「そんなことあるわけないでしょう。きっと女の子とあまり話したことないから緊張しているのよ」 駒子がからかうように言うと、加古川さんはとたんに頬を赤らめる。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加