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翌朝、パチくんが目を覚ますと、屋敷のまわりが、なんだか騒がしいことになっていた。
「毎朝新聞ですが、駒子お嬢様いらっしゃいますか。ぜひお話を…」
「日の丸新聞ですが、ぜひ駒子お嬢様にインタビューお願いしたいのですが」
さまざまな新聞社の記者やカメラマンが、屋敷の周辺に集まり、駒子のことを記事にしようとして、騒ぎ立てていたのだった。
駒子が玄関まで行って、扉を開けると、一斉にシャッターが切られた。
「みなさん。近所迷惑ですし、家には病人もおりますので、静かにしてください」
駒子が凄みのある声で言うと、記者たちは一斉に口をつぐんだ。
「あなたがたは、昨日、私が泥棒を捕まえた、という話しか聞いてないのでしょう。
事実は少し違っていて、私の力だけで泥棒を捕まえられたわけではありません。
爆竹を鳴らして泥棒を驚かし、屋根から落としたのは私ですが、
その後、大人たちを呼びに行ってくれたのは、友人の加古川さんでしたし、
この家の使用人の鉢元は、恐怖に震えながらも、大人たちが来るまで犯人を押さえつけてくれました。
大人たちは、ネクタイや腰紐を使って犯人の手足を縛り、警察に引き渡してくれました。
つまり、私が行ったことは、犯人を捕まえるきっかけの一つにすぎないのです。
私がきっかけを作ったとしても、その後に協力してくれる方がいなかったら、犯人の逮捕には結びつかなかったと思うのです。
もし、この事件を記事にしたのなら、話題性があるからといって、私の行ったことだけにスポットライトを当てるのではなく、事件の全体像を明らかにするような記事を書いてください。
取材については、事件のショックで寝込んでいる、鉢元の体調が回復次第、順番にお受けいたしますので、本日はどうぞ、お引取り下さい。
お願いいたします」
駒子はそう言って、深々と頭を下げ、扉を閉めた。記者やカメラマンたちはおとなしく帰っていった。
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