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「やだ、私ったら」
駒子は急いで、ハンカチを取り出して、自分の涙を拭おうとした。
涙は後から後から溢れてきて、駒子はパチくんの部屋で、床に座りこんで、声を抑えながら泣いた。
パチくんは、駒子が一向に泣き止まないのでかわいそうになり、目をこすりながら、いかにも今目が覚めたふりをして起き上がった。
駒子が顔を上げる。
「…パチくん、いつから起きてたの?」
「んー、今起きましたが」
パチくんはあくびをして、眠そうなふりをする。
「嘘ばっかり」
「お嬢様こそ、どうかなさったのですか。目と鼻が赤いようですが?」
「ただの寝不足よ。
それより、あと10分以内に家出ないと、学校遅刻するわ。
パチくん、学校行けるくらい元気なら、とっとと支度して、頂戴。
十分後に玄関前集合ね。遅れたら承知しないから!」
駒子はあんなやつに心を動かされ、母が亡くなってから、
一度も涙を流したことのなかった涙を無駄に流してしまったのが、悔しく、恥ずかしく、どうしようもない気持ちが体中をかけめぐった。
気持ちを落ち着かせるために1階から3階まで、広い屋敷を走って一周してまた玄関に戻ってきたとき、
駒子は息を弾ませていたが、やっと気持ちの熱が冷めて、普段の自分に戻っていく気がした。
「はい、今日もよろしくね。
今日はいつもの教科書、ノートに加えて、辞書3冊入れといたから」
いつも以上にずっしり重い、駒子がわざと重くした鞄を持ちながら、パチくんは心の中で思った。
本当は、優しく人を気遣ったりできる人なのに…普段のお嬢様は、本当に素直じゃないなあ…。
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