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パチくんがもじもじしていると、
脱げって言ってるんでしょう、聞き分けのない子ね、と駒子は言って、
パチくんの着物の襟を掴み、彼の足首を右足で思い切り蹴るようにして払った。
パチくんはバランスを崩して横向きに倒れ、床にしたたかに背中を打ちつけた。
「やったー!足技が綺麗にきまったわ!」
駒子は、元軍人の父親の影響で、少しだが、武道に親しんでいた。
技が綺麗に決まることは滅多になかったが、悪運の強い駒子に神様は味方したようだ。
痛みに顔をしかめるパチくんの上に、駒子は馬乗りになり、
彼の帯に手をかけながら、
「どう?私の言うこと聞く気になった?」
とささやいた。
駒子は、あっというまに彼の着物を剥ぎ取り、彼に手早く自分の着物を着付けてしまった。
そして、母親の部屋から勝手に持ち出した付け毛と椿油を使って、彼の髪の毛を女学生風結い上げた。その間、パチくんは、抵抗する気力を無くしたのか、駒子のされるままになっていた。
一階の台所で、乳母のユクは、
他の使用人たちと一緒に夕食の支度をしながら、
軽やかに流れるピアノの音を聞き、ほっと息をはいた。
どうしようもない、おてんば娘の駒子お嬢様が、やっと改心して、真面目にピアノのレッスンを受けてくれているものだと思い込み、完全に安心しきっていたのだ。
しかし、突然演奏が中断し、耳をつんざくような金切り声が響いた。
驚いたユクさんは、急いで、台所のある1階から3階の音楽室まで階段を駆け上がった。音楽室でユクさんが見たものとは―
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