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「すまない。これを貸してもらう」
魔獣の咆哮で腰を抜かしたオバサンが杖を落とした。杖は魔法を強化、詠唱速度を早くする事が出来る。暴走状態の魔獣に対して、サイガの魔法の威力ではダメージは少なく、行動を起こすまでに詠唱が終わる事はないが、杖があれば別だとサイガは考えた。
「この杖があれば魔法を外す事は…………」
サイガは杖に自分の魔力を接続させると、杖は無属性に対応していないせいで灰と化してしまった。
「あ、アンタ!!一体何してくれてんのよ」
「痛っ!!」
オバサンは自分の杖がサイガによって灰になったのを見て、その衝撃で魔獣の咆哮から逃れ、サイガにビンタした。
「ラキアス学園の学生ね……後から弁償してもらうから」
オバサンは動けるようになったのを良い事に、その場から勢いよく逃げ出した。
その逃げるオバサンに魔獣は反応した。それは逃げる相手を追いかける魔獣の本能がエリスよりも先に狙いをつけたのだろう。一歩一歩ゆっくりと歩き、次第にスピードを出すために走り出す。
「させるわけないでしょ!!」
エリスは魔獣の横顔をおもいっきり拳で殴り、五メートルほどになった体をぶっ飛ばした。
「ま……マジかよ……拳で魔獣を殴り飛ばすとか。どういう体をしてんだよ」
エリスは魔力を使っておらず、補助魔法で体を強化する事も出来ない。それなのに魔獣を殴り飛ばした。前勇者であるエルナもそんな事はしなかった。素手で戦っている場面を見た事がなかった。
しかし、威力が高かったわけではないのか、魔獣はすぐに態勢を立て直し、エリスに今度こそ殺気を向けた。今度は隙を見せまいと、エリスを中心に周囲を歩き出し、サイガの動きには目ではなく、常に尻尾がサイガの方な向いている。
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