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仕事中にふと目についたそれは、グレー地にゴッホの【12輪のひまわり】が白の線画でプリントされた、帆布製のブックカバーだった。
カラーの絵がプリントされた色違いの物もあったけれど、男性が使うならこっちの方が良いかと思って。
一番の理由は、白いヒマワリが街灯の下で見た硬質なヒマワリの印象と重なって見えたからなんだけど……。
暫く無言が続いて、戸惑いを覚え始めた時。
不意に、太一さんがガバッと勢いよく立ち上がったものだから、ちょっと驚いてしまった。
「透子さん、僕と――っ!!」
急に立ったから、案の定――立ち眩みを起こしたようで、あの日のように踞ってしまう。
「くそ……締まらないな……」
そんなぼやきが聞こえてきて、何だか太一さんが可愛らしく思えてしまった。
彼が何を言い掛けたのかは、多分、そういう事なんだと思う。
「何か、飲み物を買ってきますね」
取り敢えずベンチに座って貰おうと手を差し出すと、太一さんは何とも情けない顔で握ってくる。
男の人の大きな手に少しドキリとしていると、太一さんの動きが止まった。
「太一さん?」
辛いのかと思って屈んでみると、不意にぽつりと告げられる。
「透子さんの手は、温かいな」
此処まで走ってきたからと、口にしかけた刹那――。
「……太陽を掴めた気分だ」
そんな気障な言葉を、至極真面目な顔で、ぼそりと呟いたものだから……。
思わず頬が熱くなって、鼓動の方も落ち着かなくなる。
手を握られたまま、固まってしまったけれど、暫くこのままで居たい気もしていた。
付かず離れずの距離感が、居心地良いと思っていたけど……。
このまま踏み込んでみるのも、良いかもしれない。
ヴァレンタインは、女の子の方から想いを伝える日だしね。
「……お互いに時間が出来たら、デートに連れて行って下さいね」
笑顔でそう伝えると、太一さんも嬉しそうに笑ってくれた――。
私の小さな掌が
太陽だと言うならば
貴方の笑顔は
何より愛しい私の安らぎ――
<了>
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