紅茶と本と、安らぎの場所

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真冬の寒さが続く、一月中旬のある日。 お正月ムードもすっかり払拭された街は、立ち話に興じる主婦や散歩する老人達でそこそこの賑わいを見せている。 自宅のアパートから徒歩で二十分くらいの勤め先へと向かいながら、いつもと変わらない景色に何処かほっとしていた。 空も晴れて良い天気だし。寒いけど。 自販機の前に来ると新商品のミルクティーが眼に留まり、コートの袖に引っ込めていた手を出してバッグから財布を取る。 一本だけ買おうとしたけれど、同僚の子達の分も差し入れで買っていく事にした。 すぐには飲まなくても、休憩時間に温めて飲めばいいんだし。 私は女性向けの雑貨を扱うショップで働いている。なので、店員も女の子達ばかりだ。 大きなお店じゃないから、店長を含めても常時三、四人しかいないけれど。 人間関係も普通に良好だし、雑貨好きが集まって働いてるようなものだから、理想的な職場と言えた。 お店の営業時間は、午前十時から夜の八時まで。 正社員の私は繁忙期を除けば、九時から十七時までのきっちり八時間勤務だ。 今の時期は少しのんびり出来るけど、来月にはまた忙しくなるだろう。 女の子達にとって重要なイベント――ヴァレンタインがあるからね。 と言うのも、うちのショップではインポートのチョコレート菓子も扱っていて、他にもラッピング用品の紙雑貨などが売れ筋になるからだ。 恋人も居ない独り身としては、ヴァレンタイン自体は他人事みたいなものなんだけど。 ……こんな調子だから、彼氏も出来ないんだろうな。 まあ、お店の売上げが増えてお給金も上がるなら、悪い気もしない。遣り甲斐のある仕事なんだし。 熱いミルクティーの缶を常備しているエコバッグに入れながら、仕事へと頭を切り替えつつ、私はショップへと急いだ。 午後五時過ぎ。本日も恙無く仕事を終えて、片道二十分の帰路へとつく。 新しく入荷したカラフルな合皮製の財布やスマホケースが好評で、店長も機嫌が良かった。 そういったプチプラ商品も、お店の売りなんだよね。 寒いので足早に歩きながら、次に自然と考えるのは夕飯の事。 朝に炊いたご飯が有るし、冷蔵庫の残り野菜でサラダは作れるから、コンビニでおかずだけ買っていこうかな。 そう決めて、いつも通る公園の前に差し掛かった時だった。 ベンチの前で何やら踞っている人影を見付けて、思わず立ち止まってしまう。
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