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店長が――因みに、もうすぐ四十路の独女だ――帰りは車で送ってくれると言うし。
残業でも、新しい商品を並べていると意欲も上がってくる。売れると良いな、なんて思ったり。
不意に、お店の扉に取り付けられたドアベルがカランコロンと澄んだ音を奏でる。
そちらを確認すると、外の暗い夕闇の中から明るい店内へ踏み込んできたお客は、珍しい事に男性だった。
うちのお店は殆ど女性客しか来ないから、自然と目立つ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
陳列を中断して、店内を見渡しているお客に近付く。
そして、眼鏡を掛けたその顔に、見覚えのある事に気付いた。
「ん?あんた、この間の――」
男性の方も覚えていたらしく、少し驚いた顔をする。
「奇遇ですね。けれど、お元気そうで何よりです」
「ああ、うん」
彼は少し困惑気味に頷いてから、棚の商品へと視線を逸らした。
この間の事もあるけど、こういう女性向けの可愛いショップで出会したものだから、余計に気まずいのかも。
「あの……出産祝いに贈れるような物、何かないかな?知人に子供が出来たもんで」
少し経ってから、気恥ずかしそうにそう訊ねてきた。
「それは、おめでとうございます。お子さんは女の子なんですか?」
「ああ。それで、此処に入ってみたんだけど……」
話す口調も、慣れない雰囲気に落ち着かない様子だ。
それでも生まれた女の子の為に、このお店を選んでくれたのなら、意外に思い遣りのある人なのかも。
そういう事ならと、周りの商品を見渡してみる。生憎とベビー用品は扱ってないんだけれど……。
「でしたら、こちらの写真立てなど如何ですか?」
シンプルな物から写真が二、三枚飾れる凝ったデザインの物まで、可愛い写真立てが並ぶ一角を、手で指してみる。
結婚祝い等の贈答用に買っていくお客も居るんだけれど……。
隣に置かれた小物入れ等も勧めてみたものの、首を傾げながら決めかねているようなので、それならと別の物を提案してみた。
「あちらのブランケットも、軽い素材ですし洗濯機で洗えるので、好評なんですよ」
柔らかな手触りで保温性も高いブランケットは、私も自宅で愛用している。
一枚を手に取ってみて、彼も気に入ったみたいだった。
「こういう物なら、使って貰えそうだな。これにするよ」
そう言って男性が選んだのは、無地の白いブランケットだった。
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