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花柄やタータンチェックの物も有るけれど、赤ちゃんに贈るなら無難なところだろう。
「有り難うございます。包装には熨斗紙をお掛けしますか?」
「うん。頼むよ」
買う物が決まって、彼は安堵した様子だ。男性が長居するようなお店じゃないしね。
箱と包装紙を用意して手早く包み、上から熨斗紙を掛けて紙袋に入れる。
お会計を済ませると、彼は真っ直ぐにこちらを見てお礼を言ってから、お店を出て行った。
ご近所さんだろうとは思っていたけれど、まさかお店で会うとはね。
明るい店内で改めて見た彼は、少し朴訥な感じはしたけれど、嫌いなタイプではなかった。
この辺りに住んでるのなら、またばったり会う事もあるかもしれない。
陳列作業に戻りながら、そんな考えがちらりと頭を過ったりして、この日は何だか楽しい気分で残業できた。
それからまた数日が経ち――。
この日はショップの定休日で、家事を一通りこなしてから、私は買い物へと出掛けた。
必要な食材や日用品を頭の中で整理しながら、いつもの道を足早に歩く。
今日は風が強くて寒さも一入だ。スーパーへ行く前に、近くのカフェで温まっていこうかな。
そういえば、いつも買っている雑誌の今月号が発売されている頃だ。
書店も暖房は効いてるだろうし、荷物が増える前に寄ってみる事にした。
冷たい風を我慢しながら小走りで道を急ぎ、閑静な住宅地を抜けて大通りに出る。
そして近くの本屋に入ると、真っ直ぐ雑誌コーナーを目指した。
欲しかった流行雑貨の専門誌を見付けて、パラパラと捲ってみる。
都心のお洒落な雑貨屋の特集に目を通しながら、いつか職場のお店も掲載されると良いな、なんて思ったりして。
帰ってからゆっくり読もうと立ち読みを終えて、レジに向かおうとした時――。
小説の新刊が平積みになった台の前に立っている『彼』に気付いて、思わず立ち止まってしまう。
本当に、ばったり会ってしまった……。
真剣な眼差しで本を選んでる横顔に、声を掛けようか迷っていると、不意に眼鏡の顔がこっちを見る。視線で気付かれたみたい。
「あれ?やあ……どうも」
「こんにちは。本当に、奇遇ですね……」
親しい訳でもないから、続ける言葉に困っていると、彼の方から近付いてきた。その手は分厚いミステリー小説を二冊抱えている。
「この前のブランケット、早速使ってくれてるって、知人が言ってたよ」
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