紅茶と本と、安らぎの場所

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太一さんも同じかどうかは、判らないけれど……。 ヴァレンタインにはチョコレートのお菓子を作ってお店の皆に配るのが、毎年の恒例となっている。 最近は友チョコなんて言葉も耳にするし、甘い物は女の子の方が喜んでくれるものね。 ……今年は、太一さんの分も用意してみようかな。特に好き嫌いは無いみたいだし。 考えながら商品の補充をしていた時――ふと、ある品物が眼に留まった。 ヴァレンタイン前日。 今年はパウンドケーキを作ろうと決めて、何日か前から材料を買い揃えておいた。 閉店まで働いてから今日も店長の車で送って貰い、急いで準備に取り掛かる。 失敗しないよう分量をきっちり計ってから、先ずは柔らかくしたバターに砂糖と卵を加えて混ぜる。 そこに振るった薄力粉とベーキングパウダーを足して基本の生地を作ってから、刻んだミルクチョコとオレンジピールを混ぜ入れた。 後は型に入れてオーブンで焼けば、チョコとオレンジのパウンドケーキの完成だ。 焼き上がりを待つ間に、軽く食事を済ませて洗濯物を畳んでいると、キッチンから甘い香りが漂ってくる。 お菓子作りで味わえる、ちょっと幸せな一時に浸っていると、一日の疲れも吹き飛んでいくってものよね。 そうして良い具合に焼けたケーキをオーブンから出すと、少し冷めるまで待ってから、端っこを切って味見してみた。 流石に洋菓子店の味には及ばないけれど、まあまあ美味しく出来たかな。 皆に、喜んで貰えれば良いけど……。 暫く置いて冷ましてから切り分けると、英字プリントのグラシンバッグに二切れずつ入れていく。 口を折って紙テープで密封してから、最後に紐状の細いリボンを掛けた。 これが、ショップの皆に配る分。 残った分はケーキ用の紙箱に詰めてから、焦茶とアイボリーのストライプ柄のペーパーで包み、巾着のように縁を絞ってから赤いリボンで結んだ。 それを、お店で見付けた物と一緒に茶色の紙バッグに入れて、準備は整った。 整えて、しまったけれど……。 明日の夜にでも会えないか、メールしてみようかな。 少し迷ってから、携帯の画面に文字を打ち込んでいく。 『こんばんは。パウンドケーキを焼いてみたんですけど、明日、会えますか?』 ストレートに書き込んで送信してみた。 明日がヴァレンタインなのは言わずもがなの訳だし、変に勿体振るよりは良いかと思ったんだけど……。 流石に、直球すぎたかな?
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