ドキュメント

11/16
前へ
/16ページ
次へ
 ツトムは、有紗の殺害を認めた。  ただし、死体は自宅アパートの床下に隠したと供述したが、見つからなかった。殺したのは、二ヶ月前。有紗が鉄郎のアパートに行った最後の日の数日後だった。  いつものように口論となり、いつものように有紗を殴った。しかし、その日、有紗は食い下がらなかった。何とかツトムの目を覚まさせたい思いで、殴られても殴られても、起き上がった。その度にツトムは殴った。手加減はない。殴ったら相手が怪我をするとか、間違ったら死んでしまうなど、一粒も考えなかった。ただ、頭にきたから殴った。謝らない有紗が悪いとさえ思っていた。  そのうち、有紗は動かなくなった。微かな痙攣と、荒い呼吸が収まった時には、もう冷たくなっていた。  その時、初めてツトムは、有紗が人間で、しかも抵抗しない女性であることを思い出した。腫れた自分の拳。  申し訳ない、申し訳ない、と思いながら、埋めたという。  床下に、黒いビニール袋につめた死体を、土を掘って埋めた。毎日、畳を上げて確認した。生き返ってこないか、確認の為だ。それは生き返ってほしいわけではなく、生き返っては困る、という意味での確認だった。一週間ほど、外出せずに考えた。そのうち、殺人がバレるのを恐れ、逃げた。  だから、死体が見つからないはずはない、とツトムは言った。  同時に、薬物の販売に関しても供述した。しかし、使用は否定した。あくまでも、仲介役であったこと。自分は組織の末端で、販売先は民間人、個人情報は何も知らないという。  鉄郎は、この話を嶋田や他の同級生からの電話で知った。みんな口々に「じゃあ有紗はどこにいるんだ?」とつぶやく。  知っている。  知っているのは鉄郎だけだ。    いつものように帰宅する。  いつものように食事し、いつものようにシャワーを浴び、いつものようにビールを開ける。  ただ、違うのは。  傍に、有紗がいる。  何故、病院へ連れて行かないのか。何故、警察に通報しないのか。それは鉄郎自身、自分に何度も問いかけた。しかし、どれも違うような気がした。  まず、死んでいるのに腐らない。  本来、いくら保存状態が良かったとしても、死んだ生物は腐る。冷凍保存しているわけではなく常温に置いているのだから尚更だろう。それなのに腐らない。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加