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有紗の重さを噛み締めながら、あてもなく道を歩く。しかし、自然と土が見える場所を探していた。
橋を超えて、左に曲がると、河原が広がる。大きい石から徐々に細かい石、砂、土があって水がある。ここならいい。
背の高い草の生えた場所まで行くと、有紗の体を水辺に寝かせた。ちゃぷん、と髪の毛が流れにさらわれて、寄せては返す。
半開きの口からは、ビニール袋の端が飛び出している。鉄郎はそれをつまんで、川に放り投げた。
草のむせかえる香りが、有紗の腐臭を包み込む。鉄郎はそれを胸いっぱいに吸い込んだ。
腐敗はみるみる進む。
柔らかい肌は色を変え、黒く縮み、ぬらぬらとした血液と混ざり合う。光沢を持った白い骨が見える頃、夜が明けた。
橋の向こうから青い空気が漂ってきた。
ひやりと湿った、青い空気だ。
たくさん、泣いたのだろうか。
辛く苦しかったろうか。
やっと、ここへ来て、安心できただろうか。
水も空気も、時間までが、君の味方をした。君が耐えた分だけ、全てが君を祝福するのだろう。祝福された証に君の残骸が、土に染み込んで行く。水に溶けて行く。
鉄郎はかがみこんで、有紗に覆いかぶさるように地面に手をついた。
かつて唇があったその場所へ、口づけする。
肉がそげ落ちた有紗の骨格は、苦しみから癒えた笑顔だった。
空の果てはミルクに滲んだ桃色に染まる。
それが別れの合図だ。
それまでは。まだ。
僕は、ここにいる。
了
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