ドキュメント

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 夜が明ける。  橋の向こうから青い空気が漂ってきた。  ひやりと湿った、青い空気だ。  君の白い服が、ぼんやり浮かび上がる。四肢は投げ出され、押し引きする波に為すがままだ。黒く長い髪が、生きた蛇のように水面をうねる。むせ返る程の草の香りが、君を守るように覆っている。  たくさん、泣いたのだろうか。  辛く苦しかったろうか。  やっと、ここへ来て、安心できただろうか。  水も空気も、時間までが、君の味方をした。君が耐えた分だけ、全てが君を祝福するのだろう。  空の果てはミルクに滲んだ桃色に染まる。  それが合図だ。  それまでは。まだ。  僕はここにいる。  やめろよ、とツトムは言った。 「結婚祝いなんて、受け取れねえよ。第一、俺たちまだ入籍してないんだぜ」  のし袋を差し出した鉄郎の手は宙に浮いて固まった。喫茶店はジャズの明るいリズムに乗せてコーヒーの濃い香りが流れる。 「せっかくだから受け取れよ。どうせ結婚するんだろ。今でも後でも同じだろ」 「だから。今更だろ、お前からなんて。俺たち何年の付き合いだよ。ただ流れでこうなっただけの話。別に入籍しても同じ。明日は今日の続き」  ツトムはのし袋をひったくると、鉄郎の胸ポケットに押し込んだ。 「お前はそうでも、有紗は違うと思うぞ」 「苗字が変わるだけだろ。ずっと同棲してたんだし。だいたい、めでたくないんだよ、結婚なんて。だから、やめてくれ」  ツトムは煩わしそうに顔を歪めて、ゴールドのデュポンでタバコに火をつけた。  鉄郎は知っている。  ツトムは人一倍独占欲が強く、有紗を独占したいが為に結婚を強く迫っていたことを。  鉄郎がツトムと有紗に出会ったのは、高校時代。バンドブームで、ギターとベースを募集していたのが有紗がボーカルのバンドだった。ツトムはドラムをやっていた。そこに、ギターとして入ったのが鉄郎だった。演奏は下手だったが、有紗の歌はうまかった。活動は高校を卒業してからも続いたが、ツトムがプロのドラマーを目指す為に専門学校に通いだして、自然と解散した。その頃から、すでにツトムと有紗は同棲を始めていた。  現在、三人は二十五になったが、かろうじて友人関係を保っている。 「で? お前はどうなの」 「今は興味ない」
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