ドキュメント

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返事はない。  台所の窓へ回り込むと、がらんどうの部屋の中を見ることができた。赤茶に焼けた畳。何年も人が住んだ形跡はない。積もったほこりがそれを証明している。  仕方がないか。  立ち去ろうとした時。  カツン。  家の中で音がした。  ねずみだろうか。天井から乾いた流し台に何か落ちたようだ。  よく見ると、それはピックだった。  鉄郎が愛用していた、トライアングル型だ。あまりよく見えないが、見覚えのある絵柄に思えた。何故、ここにあるのか。 「有紗? いるのか?」  返事はもらえなかった。ただ、なんとなく有紗の名を呼ぶ度に、有紗を近くに感じるような気がした。    ツトムが逮捕されたと、嶋田から連絡があった。同時に有紗の捜索願も出されたことを知った。  ツトムは容疑を否認、有紗の行方も知らないと話しているそうだ。有紗の両親も有紗の行方については何も知らず、ここ数年連絡をとっていないという。  有紗の友人として鉄郎も警察に色々聞かれたが、二ヶ月以上会っていないということしか答えられなかった。どうやら、有紗もツトムの共犯者として疑われている節があった。暴行の現行犯として捕まったツトムだが、警察の目的はクスリの使用、販売での検挙だったからだ。ツトムが現物を持っていなかったとすれば、恋人である有紗が持って逃げている可能性は十分にあった。 「でもさ、俺思うんだ。ツトム、有紗のこと殺したんじゃないか? 有紗がクスリのこと警察にばらすって一言でも言えば、アイツのことだから、たぶんキレて手がつけられなくなるだろう? 殺して、どっかに埋めたとか」  嶋田は、まるでワイドショーを見ているかのように話す。初めて警察に事情聴取されてテンションが上がっているのだ。 「縁起悪いこと言うなよ」 「だってそうだろ。そりゃ、生きて無事でいてくれたらいいと思うけどさ」  二ヶ月以上だぜ、と言って指を二本立てた。鉄郎をそれを払いのけるように制した。 「やめろよ」 「なんだよ、鉄郎。お前が有紗のこと好きだったのはみんな知ってるんだぜ。なんなら、なんでツトムから有紗を助けてやらなかったんだって、みんな思ってるんだ」
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