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時は流れて。将軍、徳川家康公が世を治める時代。
今は花見の季節、うららかな気候の続く春。
とある山のとある山奥で。見晴らしの良い丘の上に立つ大きな桜の木の幹にもたれ掛かりスヤスヤと眠る女性がいた。
眠った姿からでも分かる熟成しきった匂い立つ色香。艶めかしいうなじと濡れた唇。白色、桜色、紅色、山吹色とそれぞれ四色の上等な着物を重ね着た、息を呑む程の美しさを備えた絶世の美女。
その美女の艶やかな黒髪は地面につく程長く、まるで生きているかのようにうねっていた。
ザアァァ。
一際大きな風が吹いて桜の花びらが散った。
それと同時に眠る女性に人の影が重なる。若草色の着流しを着た総髪の優男が女性に問い掛けた。
「長い時を生きる桜の権化、大妖桜の君。…で合っているだろうか?」
男の声に誘われるように女性の瞼がゆったりと上がる。
「……もぅ、誰。起こすだなんて、不躾な方。」
女性は幹に凭れかけていた上体を起こし、逆光で見えない男の顔を見ようと座っている位置をずらす。
地面に手をつき体重を移動させ動くのに合わせ、その黒髪が従順な蛇のようについていく姿がどこか妖艶だった。
寝ぼけているのか女性の全ての動きがゆっくりで、男を焦らす。
「……………。」
足下から頭の先へと目線を動かす女性に言いようのない色を感じ、男は無意識に僅かに息を荒げた。
「……あら、ふふ。」
しっとりとした真っ黒で黒目勝ちな目が男を捉え、愉快気に細められる。
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