少し擦れた歌

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 あれからどれくらいの月日が流れたか忘れ去られたころ、旅人は言葉どおり、彼の町にやって来た。  旅人は真っすぐ教会の主を訪ねた。彼はどうなりましたか?  主は言う。あんたの言ったとおりになってしまった。少し、ほんの少し擦れてしまっただけなのに、人は集まらなくなってしまった。どんな人にみせても、なおらないと言われてしまった。だから、あれはもう役に立たない。 旅人は彼を哀れんで見つめた。やはり、そうなってしまいましたか。あの時、誰かにみせていたら、なおっていたかもしれないのに。  すると、旅人は教会の主に向かって尋ねた。主よ、彼を私に引き取らせては頂けないか?私は絶対に彼を見捨てはしない。  主は考え込む。だが、しかし、と。しばらくして、主は答えた。うむ、分かった。あれは十分働いてくれた。新しい教会を建てても余りある程に。どうか、あれを頼む。  こうして、彼はついに教会の主に見捨てられてしまった。  そして、彼の新しい主が言った。  お前は頑張ったな。休憩ももらえず、異変にも気付いてもらえず、歌い続けたのだろう?もう、お前はもうなおらないのかも知れないが、私が出来るだけのことをしてやろう。そして、なおらずとも、私が最後までずっと一緒にいよう。少し擦れてしまっても私と歌い続けよう。  なぁ、パイプオルガンよ。  新しい主は彼にそっと触れた。  ドー、と少し擦れた歌が元教会に響き渡った。
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