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急に距離を詰められる。
いきなりのことで悲鳴を上げることもできない。
「っ!」
隼羽は咄嗟にそれを避けてそのまま逃げ出した。
「少しは研究に協力してくれてもよくない?」
呆れた顔をして男は隼羽を追い始めた。
隼羽は全力で走っていた。
施設の周囲にはわずかな枯れ木しかなく、隠れる場所はない。
だから障害物を利用して相手をまくことはできず、相手のスタミナが切れた間に追いつけないほど遠くに逃げるしか方法はなかった。
隼羽は高校生で男は見た目から四十代か五十代。
普通なら荷物を背負っているとは言え体力面でも身体能力でも隼羽に分がある。
そう、普通なら。
「早く止まってよ」
ヒュン
男が何かを投げたのが見え、身を捻る。
一瞬ののちに隼羽の横を何かが通過する。
ガシャン!
何かが勢いよく地面にぶつかり、砕けた。
何かがぶつかった地面から紫の煙が出ているのを見ないふりをする。
「本当、なんで避けられるのかな?今までの人はこれで止まってくれたのに」
-それ絶対、薬品にやられたからだろ、このキチガイが!
何か--薬品の入った注射器--をまたどこからか取り出した後ろの男を横目で見ながら隼羽は心の中で叫ぶ。
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