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男は普通ではなかった。
学校で上位の記録を録るほど足が速い隼羽が全力で走っても振り切れない。
隼羽のスタミナが切れ始めてきても息切れ一つ起こしていない。
さらに隼羽を止めるために明らかに危ない薬品が入った注射器を投げてくる。
何もかも異常だった。
-くそっ!いい加減疲れろ!
横目で男の様子を見ながら走る。
そのため前方の確認が疎かになってしまった。
「こっち!」
知らない声が聞こえた。
視界に一瞬、白が映り、黒に変わる。
それを認識した時には既に手を掴まれ、引っ張られていた。
あわてて前を向くと施設の白い壁と手を引っ張るだれかの黒いコートが見えた。
どうやら逃げているうちに施設の前まで戻ってきてしまっていたらしい。
「邪魔するなぁぁぁあ!」
男の怒鳴る声が聞こえる。
だれかは男の言葉の途中から動いていた。
隼羽の手を掴んでいるのと別の手で肩から下げていた鞄から何かを取りだし、男性に向かって投げつけたのだ。
思わず目で追う。
赤い色のキラキラとした何かは言葉を言い終えた男性に当たり、
ドオォォォォオオオン!
「ギャヤアアア!」
爆ぜた。
男の断末魔がやけに鮮明に聞こえた。
あまりの光景に呆然として立ち止まりそうになるが手を引っ張るだれかはそれを許さない。
「………………」
だれかは無言で走るスピードを上げた。
手を引っ張られているので隼羽もスピードを上げることとなり、前を向いて走る。
ちらり、と振り返ると施設から離れていくようだった。
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