6人が本棚に入れています
本棚に追加
施設がもうぼんやりとしか見えなくなった頃、だれかはようやく走るスピードを落とし、立ち止まった。
……手はまだ掴まれたままだったが。
ゼイゼイと息を吐き、呼吸を整えようとする隼羽を見ず、注意深く辺りを見回していた。
手を放せ、と文句を言いたいが呼吸が整わず、言葉を発することができない。
だれかは見回すのをやめると唐突にこちらに振り返った。
「!?」
目を見張る。
走っていたときには見ている余裕がなかっただれかの容姿はおかしなものだった。
身長も髪型も男女のどちらでも通じるもの。
体格もコートで隠されていてわからない。
なによりも目を引くのは顔だった。
白い仮面に顔全体が覆われ、顔のどのパーツも見ることができない。
笑顔でも泣き顔でもない無表情の面が不気味だった。
顔も格好も『個人』という情報がすべて消されたよう。
黒い長めのコートと白い無表情の仮面は不吉なイメージを思い起こさせる。
後退ろうとするが手を掴まれているため叶わない。
「大丈夫か?」
仮面の奥から声が響く。
声変わり前の男子のような、声が低い女子のような、性別が判別しにくい声。
しかしそこには相手を心配する声色が含まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!