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だれかは笑っていた。
笑える状況ではないのに、笑っていた。
体力も気力も尽きかけているのに、笑っていた。
ほとんど機能しない耳と目で感じる、悲痛な声で自分の名前を呼びながら駆け寄ってくる大切なだれかのために。
これから自分にとってもだれかにとっても最悪なことが起きてしまうから。
せめてその心の傷が深くならないように。
笑う。
その意味はちゃんとわかってもらえるから。
顔がひきつりそうになりながらも。
笑う。
「------」
だからきっと、最期に言った言葉は聞こえてなくても届くだろう。
殺風景な世界に鮮やかな赤い花が咲き、乾いた大地に生温かい液体が染み込んだ。
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