ラストイブ

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切ない、刹那い。 「最後くらい、独り占めしたいだろ」 今日、想いが叶ったって。 明日には全部消えるのに。 絡み合う視線も、背景は風俗店の待機室で、コタツにあったまりながらで。 そんな間抜けな状況で。 「ね。私、店長の名前、未だに知らない」 「…まじか」 「まじ」 だって。 店長はずっとてんちょーだった。 マリアは真理亜。 キリスト教気触れだった母親が、あやかろうとしてつけた名だ。 実際には聖母からは程遠く育ってしまったわけだけど。 ぬっくぬくの手が頬に伸びてきて。 私は思わず、心地よさに目を閉じる。 「郁人。って呼んで」 「いくと」 「真理亜」 「うん」 吐息が一瞬、頬に触れて 唇が重なった。 触れるだけのキスに、涙が出た。 10年越しの、たった一晩。 「仕方ないから、真理亜が一緒にいてあげる」 いなくなった猫たちみたいに。 死に場所を探して、ひとりじゃいたくなくて。 たどりついたのが、10年馴染んだこの店で。 郁人に掴まったのなら本望だ。 借金も 郁人の家族も モラルも 罪も うまくいかないこと全部 全部全部 明日になればラッキースターが巻き込んで ひとつになってはじけ飛ぶ
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