ラストイブ

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終末というものは案外ゆっくりとした足取りでやってくるものらしい。 それでも、ひとつの星が終わりを迎えるのだと思えば、それは酷く駆け足なのだろうけれど。 2年前地球に落ちてきた隕石は、ラッキースターと名付けられたにも関わらず、人類にとって至上最悪の凶星であったらしい。 じわじわと2年かけてラッキースターは地球の中心に到達し、爆発する。 宇宙に見事な花火があがるわけだ。 その打ち上げの日が明日だというのに。 「てんちょー。何やってんですか」 店の路地裏で、地べたに這いつくばって側溝を覗き込む、見慣れた黒服。 「んー?いやなぁ。ここんとこさっぱり姿が見えねんだよなぁ」 「あぁ…シロちゃんですか」 男の膝下には、猫の餌皿が置いてある。 ずっとここいらに居着いていた、勝手にシロと名付けられた野良猫が数日前から姿を消したらしい。 「猫ちゃんですからね。死ぬトコ見られたくないとかじゃないですか?」 「てっきり迷信かと思ってたけどな」 「ね。不思議なもんですね」 実際、この街の猫は、全く姿が見えなくなった。 起き上がって膝に着いた土埃を、ぱん!と叩いた男の顔は、今はくたびれたオヤジになっちゃったけど。 10年前は、もう少し精悍な男前だった。 それはモチロン、私にも言えることだろうけど。 10年前、私はもう少しピチピチだった。はずだ。
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