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こたつに入って寝転がって、両手を二人で握り合った。
時々キスをして、うたた寝をして。
冷めた珈琲を入れ直そうかって郁人が言ったけど。
嫌だった。
だって、ラッキースターがフライングして。
ちょっと離れた隙に全部消えたら嫌だもの。
シャッターも下りたビルの、窓のないこの部屋には外の光が少しも差し込まない。
だから、今がもう朝なのかもわからない。
珈琲カップが二つ並んだ、こたつの天板。
カタカタと振動が伝わった。
ごごごって、地鳴りが聞こえるのはきっと、気のせいじゃない。
古い建物だから、きっと長くはもたないんだ。
「怖いね」
震える肩を、初めて抱き寄せてくれた。
郁人の腕も震えてる。
ぴしぴし、ぎしぎし。
今にも崩れそうな音が、あちこちから聞こえる中で。
薄暗がりを保っていた、部屋の明かりが消えた。
「郁人。いっしょにいてくれてありがとう」
「好きだよ」
世界が消えるこの一瞬
私はきっと誰よりも幸せに笑っただろうけど
真っ暗闇で郁人にもきっと見えなかっただろうな。
end.
【キーワード】
ラッキースター・花火・珈琲・笑顔・涙
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