act.1

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階段を駆け上がり、廊下を進んでいく。 前方に、見知ってはいるが視界に入れたくない顔を見つけ、怒りが込み上げた。 あの目に優しくない金髪は、嫌でも目立つ。 加えて右耳に二つ、左耳に三つと輝くピアス。 第三ボタンまで開け放ち、その胸元で揺れているはずのネクタイはない。 腰で履いているために引きずっている裾の下で踏み潰されている踵、すべてがただただ腹立たしい。 「忍坂!!」 派手な女子ばかりに囲まれ、へらへらと愛想を振りまく。 そんな男が、俺を捉えた瞬間、わかりやすく表情を歪めた。 「何かな、関くん?」 「何かな、じゃない! 貴様、あれは何のつもりだ!!」 「あれ? ああ、あれね。まあこっちとしても本意じゃないんだよ。で、読んだ?」 「読んでもらえるとでも思っていたのか?」 即座に破り捨てて塵にしてやったわ。 あんなもの、読むまでもなくろくでもない計画のもと作成されたのだとわかる。 「読まずに捨てたの? 酷い奴」 「ふざけるな、酷いのは貴様だろうが」 「ちょっと関! アンタほんっとうにウザい、さっさと消えてよ」 俺と忍坂の間に割って入った女子は、不愉快とばかりに俺を睨みつける。 ため息をついたのが気に障ったのか、その女子は手を振り上げた。 それをすかさず掴み、ぐっと引き寄せる。 「それはごめん。話をつけたらすぐ返すから、こいつ借りていい?」 「っ……いい、けど……」 「ありがとう。えっと、水野さん」 確かそんな名前だったなと、呼んで礼を言うと、何故か彼女は真っ赤になって眉間の皺を濃くした。 比較的優しく接したつもりだ、怒りを買う理由は見当たらない。 それでもこんな表情をするということは、相手には不快だったらしい。 どうやら怒らせてしまったようだ。 「関くんって、天然のたらしだよね」 「あ? 話の腰を折るな」 「先に折ったの関くんだよね」 やれやれといったふうに首を振る忍坂。 この男の何もかもが俺の神経を逆撫でする。 本当に、気に食わない。 「……もういい。話があるからついてこい」 渋る忍坂の手首を掴み、歩みを強制する。 低い位置から引っ張られていると歩きにくいのか、いつもは颯爽と歩くのに、珍しく格好悪い。
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